5. クロッシング~祈りの大地~ ①

2008年6月26日、北朝鮮の悲惨な現状と脱北者の悲劇をリアルに描いた映画作品、

キム・テギュン監督の「クロッシング」が韓国で封切りされ好評を博したそうです。

翌年の2009年春には日本全国でも上映されると、一旦は公表されたようですが延期され、

ようやく今年2010年4月17日より、東京渋谷・ユーロスペースにて公開が始まり、

ここでの反応が良ければ全国でロードショーを予定しているとのことです。

私は、4月17日から渋谷・ユーロスペースで始まる上映に1人でも多くの方々に足を運んで

隣国で起きている現実を直視して理解を深めてもらい、興行が成功して全国でのロードショー

が実現されるようにとの願いを込めて、作品を紹介します。



印象派の絵画を彷彿させる北朝鮮・咸鏡南道の風景
印象派の絵画を彷彿させる北朝鮮・咸鏡南道の風景 
主人公のヨンス(チャ・インピョ)と息子のジュン(シン・ミョンチョル)


父子が再会を目指すモンゴルの美しい夜空
父子が再会を目指すモンゴルの美しい夜空


村でのささやかな娯楽の様子
村でのささやかな娯楽の様子


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6. クロッシング~祈りの大地~ ②

脱北者がテーマの映画と聞けば楽しい内容のはずはなく、そうでなくても何かとストレスが

たまりやすい昨今「せめて映画くらいは明るく楽しいものを観てスカッとしたい」と敬遠されて

しまう懸念を少し感じましたので、実際どのような作品なのか、あまりネタバレにならない程度

に私自身が観て良かったと思える点を中心に書いてみたいと思います。


中国国境に近い北朝鮮・咸鏡南道の炭鉱で働くヨンス(チャ・インピョ)は元サッカー選手で

現役時代の活躍は人々の記憶にまだ残っているほどです。妻(ソ・ヨンファ)と11歳の息子

ジュン(シン・ミョンチョル)との生活は決して楽ではないものの、3人はお互いを尊重して

労わり合いながら、つつましくも幸せに暮らしていました。
戦前の日本の一般家庭よりも物が

少なく、貧しく質素な暮らしの中でも、家族が寄り添って助け合って精一杯生きている姿は、

清らかで私達が失ってしまった目に見えない大切なものを思い出させてくれるかのようです。


3人の食卓
3人の食卓


道具が無くてもボール1つあれば、あるいはボールすら無くても、代わりの物を見つけて

楽しめるサッカーが、世界で一番普及しているスポーツだと言うことは、この作品からも

良く伺えました。大人も子どもも、生き生きとサッカーを楽しむ様子は、暗くなりがちな

テーマに、やすらぎと光明を与えてくれます。貧しくて限られた状況でも逞しく生きる

人々に強い共感を覚え、憐憫の情だけにとどまらない何かを感じとることが出来ました。


炭鉱でのサッカーの試合
炭鉱でのサッカーの試合

サッカーを楽しむ父子と飼い犬
サッカーを楽しむ父子と飼い犬


ヨンスの友人で頻繁に中国を訪れる貿易商のサンチョルには、ジュンと同級生の娘ミソンがおり

ジュンは密かに恋心を寄せますが、ナイーブさが微笑ましく純粋さに心が洗われるようです。



制服姿のジュンとミソン
制服姿のジュンとミソン


こうして、テレビなどでよく観る平壌(ピョンヤン)以外の北朝鮮の様子を伝える手段として

現実に即しながらも優しい目線と絶妙なカメラワークにより、その先に待っている展開に一種

の期待感を抱かせ「決して目を伏せることなく最後まで鑑賞しよう」と言う気持が自然と沸いて

来るように工夫している点は、製作者の最も苦労したことのひとつではないかと思いました。


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7. クロッシング~祈りの大地~ ③

貧しくも幸せな3人の生活は、ヨンスの妻が栄養失調から肺結核に罹ることで崩れていきました。

病院はあっても治す薬がなく、せめて栄養をつけさせたいとヨンスはジュンが可愛がっていた

犬まで犠牲にしますが、他になす術はなく遂に薬と食料を求めて中国へと渡る決心をします。



ここから先は、だんだん辛い内容になっていきますが、ヨンスを演じるチャ・インピョさんが、

兵役中に主演した映画 「アルバトロス」 のように、観るに耐えない程の残虐さはありません。

同じく兵役中のイ・ジョンジェさんが出演していたことから私は、わざわざ韓国から中古の

ビデオを購入して鑑賞しましたが、いくら北朝鮮の惨状を伝えようとしても、ここまで残虐だと

多くの人に観てもらえる可能性は限りなくゼロに近くなると思われ、「クロッシング」の手法は

つくづく素晴らしいと思いました。


サンチョルから聖書をもらうヨンフ
サンチョルから聖書をもらうヨンフ


ヨンフが中国国境の川、豆満江を渡る決心をする少し前に、貿易商の友人サンチョルから

聖書をもらうシーンがあります。サンチョルは北朝鮮政府公認の貿易商でしたが、密かに

禁止されている宗教を布教するために聖書を大量に持ち込み、自分の家に隠していました。

マルクスは「宗教は民衆の阿片である」と、レーニンは「宗教は毒酒である」と、金日成は

「宗教は反動的で非科学的な世界観である」と定義し、北朝鮮に宗教の自由はありません。

私自身は特定の宗教を信仰していませんが、宗教を弾圧して指導者が都合の良いイデオロギー

を民衆に押し付け洗脳させる行為は人の道を大きく逸脱しており、いかなる宗教を信じることも

人間である以上自由だと当然にして思います。この作品ではクリスチャンである監督の思いが

主人公ヨンフのセリフなどにも込められているようですが、私としては何の抵抗もなく受け入れ

られる内容でした。そもそも、あらゆる宗教の創始者の考えは全て正しかったのに、後の人々の

解釈が少しずつずれて宗派が枝分かれしたり、宗派間の争いが起こったりする悲劇が生じている

との考えを私は持っています。この作品で登場するキリスト教の思想は、正しい創始者の考えと

同じだと思いましたし、悲惨な状況に甘んじながら、それでも生きていかなければならない人々

にとって死後にも世界があることは大きな希望と言えるでしょう。

そのような希望すら奪い取られて、悲惨な生活を余儀なくされている北朝鮮の人々を1日も早く

自由の身にしてあげたいと、非力ながらも切実に思いました。

中国へ渡る父を見送る息子
中国へ渡る父を見送る息子


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8. クロッシング~祈りの大地~ ④

妻の薬と食料を求めて中国国境の川、豆満江を渡ったヨンフは、不法就労の発覚に怯えながら

木材伐採現場で働いてお金を稼ぎますが結局は警察に追われる身となり、この作品のシナリオ

のモデルとなった 「北京駐在スペイン大使館進入事件」 に巻き込まれ、家族が待つ北朝鮮には

戻れず韓国へ向かうことになってしまいました。2ヵ月後、ヨンフの帰りを待つ病気の妻は衰弱

して静かに息を引き取り、残された息子のジュンは、父を探しに中国へと旅立ちます。


11歳の少年ジュンが1人で中国へ渡ることは、屈強な大人のヨンスより遥かに困難を極め、

彷徨っているうちに偶然、孤児となり変わりはてた姿のミソンに出逢い、2人で国境の川を

渡ろうとした時、不運にも捕らわれて収容所に入れられてしまいます。


悲惨な生活の中でも、2人は相手を思いやり励ましあって健気に生きる姿が描かれており、

私はここでのシーンが作品の中でも、特に優れた部分であると感心しました。


ジュン 「ほんとうに死んだ後、父さんと母さんにまた会えるって本当?」

ミソン 「うん そこはお腹も空かず痛いところもない、そんな場所だって」

ジュン 「でも、雨は降ったらいいな」



励ましあう、ジュンとミソン1
励ましあう、ジュンとミソン2
励ましあう、ジュンとミソン


中国からモンゴルに向かう風景
中国からモンゴルに向かう風景

北京駐在スペイン大使館進入事件のシーン
北京駐在スペイン大使館進入事件のシーン


韓国に到着したヨンフは、懸命に働きながらブローカーを通じてジュンの消息を知り、不可能

とも思える努力を続け、モンゴルでの父子再会を目指します…



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9. クロッシング~祈りの大地~ ⑤

キム・テギュン監督は、現実に即した内容に近づける為、北京駐在スペイン大使館進入事件を

もとに脱北者100人以上に話を聞いて実話に近いシナリオを書き、韓国・中国・モンゴルの

3か国のロケを極秘に行なったそうです。政治的・社会的に難しいテーマを扱う作品の製作は、

あらゆる面で危険が伴い、よほど強い信念がなければ手掛けることは難しいと思います。

最初に触れたように興業として成功する可能性は低いうえ、政治的圧力で、身の危険さえ覚悟

しなければならないこと、広範囲なロケは政治的及び物理的危険が伴うと同時に多額の資金が

必要など、困難なことはきりがないほどあります。それでも、やり遂げた監督をはじめ、大勢の

スタッフ、出演者の偉業に拍手喝采を贈りたい気持ちでいっぱいです。

主演のチャ・インピョさんが制作報告会で「ナイーブな脱北問題を扱った映画への出演について

政治的な意味があるのではないかとよく聞かれました。政界に進出する考えは全くありません」

と言っていたように、純粋で正しい動機のもとに製作や出演をしても、穿った見方をする人は

多くそのことによって心を痛め、する必要のない苦労をしなければならないのは、とても残念

なことだと思います。かく言う私も比較さえ出来ないほど微力ではありますが人生の半ばを過ぎ

このブログの 「はじめに」 に書いたような状況になったので、それ以前には考えられない

出来事に見舞われたり、信頼していた人に酷く裏切られたりと大変な経験を経て来ました。

それでも私は、人の道を常に真っ当に歩み、自分にも他人にも嘘をつくこと無く、正々堂々と

やって来たので、心ない策略によって誤解されたままであっても構わないと、心から思えるよう

になりました。それは、この作品でも言っているように次の世界が必ずあるからです。

だからと言って 「現在北朝鮮で起きている惨事を諦めて、次の世界に期待しなさい」 と言って

いるのではなく、この世に生まれて来た以上、出来ることに可能な限り最善を尽さなければ

ならないとの考えです。当然、次の世界に行く時期を自分で決めることは絶対に許されません。

監督をはじめ全ての関係者の方々は、出来る限りの力を振り絞って「クロッシング」を

完成させたと思いますので、この大作を真摯に受け止め先ずは現実を知り、次にすることを

各々で考えて頂きたいと心から願っております。



可能な方はぜひ、2010年4月17日より、東京渋谷・ユーロスペースに足を運んでください

ますよう宜しくお願い致します。

又、もし宜しければ こちら から、脱北者支援のための寄付を頂ければ幸いです。

北朝鮮難民救援基金は、支援金を脱北者の為に有効活用してくださる信頼のおける団体です。


モンゴルで父を探すジュン
モンゴルで父を探すジュン


ジュンは雨の好きな少年です…

雨は全て洗い流してくれるから?

お父さんにサッカーを教えてもらった時、ちょうど雨が降っていたから?

良い想い出は全て雨の日に起きたから?

恨みも苦しみ何もかも、全て雨に流してしまえばいいから?

雨が落ちてくる空の上は、限りなく自由で美しい世界だから?

雨にうたれなくても、次の世界に行かなくても、

ジュンが幸せに暮らせる国に早く変わらないといけませんね。



雨の中のヨンスとジュン
雨の中のヨンスとジュン


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